朝散歩で出会う和ハーブフラワーたち
日本列島は夏から秋へ。けれどこの時期の体調管理は、意外と難しいもの。
そこでおすすめは朝のウォーキングです。身体のリズムが整って、やる気スイッチONに!
私も愛犬と一緒に歩く朝から始まります。道すがら出会える、紅紫色の和ハーブフラワーたちはこちら!

「クコ」の花です。クコというと、中華食材でお馴染みのビューティフル―ツ「クコの実」のイメージが強いかもしれません。
じつは日本にもかなり古い時代に入ってきていて、果実のほかに葉・茎・根、すべてが滋養強壮に食されてきました。
赤い果実の実る前、夏の盛りには、こんな直径1.5cmほどの花が見られました。どことなくナス(茄子)のような色?・・・そう、クコはナス科の仲間です!

「ヘクソカズラ」の花です。独特のにおいからちょっと残念な名前がついてしまいましたが、小ぶりな花をよく見れば、とっても愛らしい佇まいです。
別名「サオトメバナ」…早乙女(田植えをする娘さん)の被る帽子、のほうが素敵かな。しかも花の内側は濃い紅紫で、まるでベルベットのよう!思わず吸い込まれてしまいそうな深い色をしています。
そしてもうひとつ。空気に、甘い赤ワインのような香りが混じってきたら(虫たちも大好きな香り!)、紅紫色の花がきっと近くにあるはずです!

「クズ(葛)」の花です。クズって、風邪のときに粉をお湯に溶かして飲むあれのこと? そうです!この植物の根を水で何度も晒して、ようやく採れるでんぷんを原料にしたのが「葛湯」ですね。
クズは日当たりのよい道端でぐんぐん伸び、他の植物をも覆いつくしてしまいます。
さきほどのヘクソカズラと同じように、蔓でぐんぐん伸びるタイプです。
その蔓のところどころに立ち上がる花を初めて見つけた時はびっくり!なんて色鮮やか、生命力に満ちているのでしょう。
リスのしっぽみたいな穂状に、蝶々のような紅紫色の小花が密に付いていて、だんだんと下から上へ登るように咲く変化も興味深いです。
この花は摘んでジャムにしたり、乾燥させて和ハーブティーにしたり。イソフラボンが含まれていて、女性特有の症状を和らげるともいわれていますし、紅紫色を見つめるだけでもなんだかうっとり。心が優しく癒されるような気がします。
こんなに目立つ色の花なのにあまり知られることがないのは、しばしば大きな三枚葉に隠れて咲くからでしょうか。
葉裏は白っぽくて、風でちらちらと翻って見えることから「裏見草(うらみぐさ)」という名も。
ちなみにクズの蔓先をみると、なんだか枝豆みたいな雰囲気(マメ科に属します)。
手先で簡単に折れるやわらかい部分だけを摘んで、2~3本をひとまとめにして天ぷらにするのもおいしいです!
秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花
これは『万葉集』に採録されている山上憶良の歌です。
そして草原に分け入って、花の名前を数えていったらこんな七つの草木に出会った…
はぎの花 お花 くず花 なでしこの花 おみなえし 又ふじばかま あさがおの花今も伝わる「秋の七草(七種)」です。しっかりとクズの花も登場していますね!
「春の七草」同様、一時期にいくつもの植物を数えられるのは、まさに日本の風土がもらたす豊かさの証。
もうひとつの万葉の歌から、クズと人のつながりが読み取れます。
おみなえし 生ふる沢辺の 真葛原 いつかも絡りて わが衣に着む(意訳/女郎花の生える沢辺で 一面に葛が広がっている いつかそれを手繰り寄せて 自分の服にして着てみたいな) 古代原始布のひとつである「葛布(くずふ)」をご存知でしょうか。軽く柔らかく、保温性や通気性も良し…そんな機能性に加えて、キラリと光沢を放つ美しさも兼ね備えています。日本の四季に合い、普段づかいの服にもぴったり。
長いクズの蔓を採取して煮たあと、クズをススキと互い違いに重ねて発酵させていきます。その後、表皮を水で洗い流し、ほぐしながら繊維を選り分けて乾かします。繊維ひと筋ひと筋が細い糸となり、丹念に織り上げることで光り輝く布が生まれます。

蔓を採取し、ひとまとめにしてゆでる準備

取り出した繊維
いにしえから続いてきた葛布織りの技法は、人から人へ、暮らしの中で編み出されたもの。
先の歌にあった「真葛(まくず)」もまた、先人たちの温かい想いに包まれた呼び名だなと感じます。どれも大切に受け継いでいきたいですね。

人の手で繰り出し、編まれる葛。光り輝く古代布・葛布 ©Rika Arai