
冬至を越えて、冬が深まるときの養生
冬至を過ぎると、暦の上では「陽が生まれる」とされます。日照時間はわずかに伸び始め、一見すると冬は折り返しを迎えたようにも感じられます。しかし、身体の感覚は正直です。冷えはますます増して夜は長く、空気は...
ある春の日、草むらを歩いていると、程なくして爽やかな香りが立ちのぼってきました。その場にしゃがみこんで辺りを見渡せば、1本の茎の節の両脇から丸い葉がリズミカルに伸びて広がっています。
それは「カキドオシ」という、なんとも不思議な名前の草でした。いい香りね、乾燥させて普段はお茶で、あとは疳(かん)の虫を取るから“かんとりそう”って呼んで子どもに飲ませてきた、家庭のおくすりなのよ。と植物研究家の先生に教えていただきました。
この日のことは鮮明に覚えています。鼻に残る香りの記憶と、植物と人の交わるストーリーに魅了されたせいでしょうか。そして今もなお、私の日々の暮らしに欠かせない植物になっています。
カキドオシの葉の形はチドメグサやツボクサに似て、同じような場所で育っていますが、チドメグサほど葉が光っていません。四角い茎と葉に細かい毛があります。
生薬名は「連銭草」つまりコインのような葉が連なっていく様子から。利尿や血糖降下の作用が古くから知られています。ヨーロッパでは鎮咳、去痰、ぜんそくなどの発作にも用いられているそうです。湿疹ができてしまったときは、濃く煮出した液を塗布すると消炎作用が期待できます。
カキドオシのかわいらしい姿にほっこりと癒されつつ、驚きの生命力で、身にも心にも健やかなご縁を結んでくれそうです。
シソ科に属するカキドオシは、バジルやミント類、シソ(大葉)に香りが似ています。でも食べてみると、それらとも違う爽やかな味わいがあります。軟らかい葉と花を一緒に摘んで生のままサラダ、かんきつ類とあわせてハーブウォーターに。油調理もあうので揚げものや炒めものに。和の調味料や各国料理にもあわせて楽しい万能素材です。
野にまだ花が少ないうちに、カキドオシの花の群落を見かけるとつい嬉しくなってしまいます。淡いパープルピンクの花は小さいですが、よく観察すると唇のような形です。一年を通じてハーブティーでいただくならば、花のつく4~5月頃に、地上の全草を摘みドライにして保管しておきます。その頃は香りが豊かでアクも少ないので、摘んでさっと水洗いしてからティーポットにつめ、たっぷりのお湯を注いでフレッシュな和ハーブティーも楽しみます。
摘ませていただく時は来年もまた出てきてくれるよう、場所のすべてや根まるごとを掘り起こさないように気をつけます。
カキドオシを自宅で育てておけば、いつでもフレッシュな味わいを楽しめます。つる性で伸びてフォルムが日々変わっていく楽しみもあり、香り立つグリーンインテリアにもなってくれます。
実際の野山ではどんな環境でもたくましく生えていますが、日当たりがよすぎると葉茎や毛がやや固くなり、香りもこわばってしまうようです。部屋では窓際のカーテンやブラインド越しで育てたほうが、料理用には向くと思います。
ご自宅のプランターで育てる場合、土は野菜や花を育てる園芸用培土がおすすめです。基本的に丈夫な植物ですので肥料をあげなくてもよく育ちます。お水は鉢の土がしっかりと乾いてからたっぷりとあげてください。
また“垣根を通ってぐんぐん伸びる”という元気いっぱいな名の通り、繁殖力の強さを活かせばグランドカバーになります。地植えでは花をつけた茎がいったん立ち上がるようにして伸び、その後は横へ這って茎を伸ばしていきますので、適度に剪定しながら様子をみていきます。積極的な水遣りは特にしなくて大丈夫です。
最近ではカキドオシの苗が園芸店やネットショップなどで販売されています。初めて育てる方は、信頼できるファームから苗を取り寄せてみるのも良いでしょう。植え替えの際は根詰まりを起こしやすいので、根をほぐしながら一回り大きなポットに移して、土を補ってみてください。葉を摘んでもどんどん大きく増えていきます。元気いっぱいのカキドオシは皆さんのパートナーになって、家時間にささやかな幸せを運んでくれることと思います。
参考書籍:『くらしの薬草と漢方薬』水野瑞夫・太田順康(新日本法規)
参考ショップ:井入農園(滋賀県守山市)#iiri_farm ※農薬不使用で育った和ハーブ苗のお取り扱いがあります。
この記事を書いた人

平川 美鶴 (Mitsuru Hirakawa)
和ハーブライフスタイリスト
植物民俗文化研究/(一社)和ハーブ協会 副理事長
8月2日“ハーブの日”生まれ。「和ハーブ」と日本人の関わりを、歴史・文学・薬効・自然風土・産業などから調査研究。講師業、商品企画開発、実践ワークショップを通じ、自然の恵みと共にあった先人の尊い知恵を生かし、未来へどう届けるかを考えるメッセンジャー。共著『あなたの日本がもっと素敵になる 8つの和ハーブ物語 ~忘れられた日本の宝物~』(産学社)、『和ハーブ にほんのたからもの』(コスモの本)
一般社団法人 和ハーブ協会(Japan Herb Federation) http://wa-herb.com
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