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日本では良い塩梅(あんばい)、という言葉がありますね。私たちの日常の生活では塩に関することが日常的に言葉になって使われています。
今回は昔から人類が生活に取り入れてきた発酵を抑制する塩の力と、その塩分濃度の関係をご紹介します。これを知っておくと、日々の料理や発酵食品、保存食作りに活かせますので、塩の使い方を意識していきましょう。
<日本の塩と食文化>
塩に関する日本の言い伝えには いくつか興味深いものがあります。
一つは<塩を送る>という表現で、これは贈り物やお土産の際に、相手に幸運や幸福を願う意味が込められています。
また<塩は人の心をなめる>という言葉もあり、人の心の奥深さや複雑さを表現しています。
発酵に関係する要素として、醤油や味噌、糠床、漬物、保存食品など、冷蔵庫がなかった昔の人々が、塩と微生物のバランスを調整してきました。
いかに食物を保存して、年間食物を確保するかという知恵を伝統的な発酵食品は教えてくれます。
発酵と腐敗、その絶妙なバランスの間を調整するのが塩分濃度です。
この塩分濃度のことを知っておくと、さまざまなことに応用できます。
塩分濃度は、日本の伝統的な食文化では重要な要素です。濃度が高い状態で保存された食材は腐敗しにくくなるため保存食になり、特に20%とかなり高いものは常温でも長期保存ができるようになります。
<塩の役割>
塩は防腐効果があり、細菌類を死滅させ、増殖を抑える働きがあります。
昔から塩蔵の魚、漬物、味噌、醤油など多くの食品の保存に使用されてきていました。
食物の腐敗を防ぐのに、乾燥、燻製、塩漬け、砂糖漬けなど、水分を取り除いて食物を保存します。塩は浸透圧のちからで食物に浸みこんで、野菜や魚肉の細胞から水分を抜いて腐敗菌などの微生物が生きられない環境をつくります。
それは塩自体に腐敗を防ぐちからがあるのではなく、塩の浸透圧によって細菌の細胞内の水分が脱水され、増殖に必要な水分が不足するために細菌が繁殖できなくなることといわれています。
<高濃度の塩の中でも生きられる菌とは?>
通常の細菌は10%の食塩水でほぼ発育は阻害されます。
しかし、カビや酵母は食塩に強いし、好塩菌や耐塩菌は増殖します。
腐敗菌は、10%以下の塩分濃度で発育が阻止されますが、酵母の中には、20%、カビでは25%くらいの塩分濃度でも繁殖する微生物がいます。
例えばお味噌を仕込んで、表面に塩を振ってもカビが発生するのが、その微生物です。
塩には、雑菌による腐敗を防ぎ、有用な耐塩性の酵母と乳酸菌のゆるやかな活動を支え、発酵熟成によって発酵食品に色と香りを醸し出す働きがあります。
この耐塩菌、乳酸菌、酵母などの好塩菌と呼ばれる微生物が、濃い塩分の中でも生きられるのは、細胞内にカリウムなどを蓄積して細胞外の塩分濃度と同じ浸透圧を保っているからです。
<乳酸発酵の漬物の濃度は2%>
さて、お漬物を作るときには低塩分で漬物を乳酸発酵させて作る方法があります。乳酸発酵の漬物の塩分濃度は、約2%が目安です。
乳酸菌を活動させるために低塩濃度で野菜についた酵母や植物性乳酸菌を活性させる方法があります。
この場合、植物性乳酸菌が自分の周りに酸を出すため、雑菌が寄り付かなくなるので、長期保存が可能となるのです。
<腸がととのう。野菜と塩水だけ!乳酸発酵漬けの作り方>
野菜と塩水だけで作る、基本の乳酸発酵漬けをご紹介します。
乳酸発酵漬物は、塩分を含む漬け床に野菜を漬け込むことで作られます。これは野菜から出た水の中で乳酸菌が育成し、野菜の糖類などを分解して乳酸を作り出します。
これにより野菜のpHが低下することで酸性になり、酸味が出ると同時に、酸に弱い腐敗菌の働きが抑えられるのです。
【材料】野菜500g当たり、水3カップ&塩大さじ1(塩分濃度3%)
乳酸発酵漬けに使う塩水の基本は、水1カップに塩小さじ1。
塩分濃度3%の塩水を作って、ジップロックやタッパー、瓶などに入れて仕込みをして、常温にそのまま2−3日おいて発酵させます。漬け汁が白濁して、食べてみて酸味を感じるようになったら、冷蔵庫に入れ1ヶ月以内で食べ切るようにしましょう。
作りたい量が少量でも大量でも、この方程式で塩分を調整すれば失敗しません。野菜が水に浸りきらない時などもこの割合で塩水を作って足せばOK。
また、漬物を作る際は上から重しをすることで、酸素の触れる部分を極力少なくして腐敗菌を侵入しにくくします。乳酸菌は酸素のないところでも生きることができるので、腐敗菌よりも乳酸菌が多い状況にすることができます。
<乳酸発酵に向く野菜、向かない野菜とは>
「乳酸発酵漬け」に向く野菜
ぬか漬けにできる野菜ならなんでもOK。キュウリやカブ、カリフラワー、ニンジンなど冷蔵庫で余っている野菜を漬けてみてください。キノコや干し野菜、レモンなどの果実も乳酸発酵漬けに向きます。
天日乾燥した切干大根などの干し野菜にも乳酸菌は付いているので発酵することも多いので、ぜひ試してみてください。
「乳酸発酵漬け」に向かない素材
野菜の中でもホウレン草やゴーヤーなどアクや苦みが強いものは不向き。レタスなど葉が柔らかいもの、レンコンなどでんぷん質が多いもの、海藻も向かないです。
<塩を使わないで発酵させる漬物、すんき>
塩は発酵するのに必要か、といったらそうでもないのです。
長野の木曽では塩が貴重だったため、発酵させるのに塩を使わず作る<すんき>という乳酸発酵の漬物があります。
300年以上の歴史がある漬物、<すんき>
漬物ですが、一切の調味料を使わず在来種の赤蕪の葉っぱを乳酸発酵させて作る世界でも大変珍しい無塩の漬物なのです。
これは塩がなくても乳酸菌が活性しているので酸が過多の状態になり、長期保存できるのです。
無塩の漬物であることから、減塩効果が注目されることも多いのですが、地元では塩味を加えて食べるのが一般的だそうですよ。
<塩で発酵をコントロールする>
発酵の世界に密接に深関わっている塩分濃度。この濃度の違いや、塩の役割などを知り、なぜ保存ができるのか?浸透圧などの仕組みを理解することで、より微生物と発酵、腐敗の仕組みがわかると思います。
腐敗する原因は何なのか?雑菌が繁殖する原因は?それを避けることで発酵の世界をより理解できると思います。
見えないものの世界を知ることは難しいですが、発酵の仕組みが塩でコントロールできるって面白いですよね。
<人間も塩分で左右される>
さて、人間の体内の血液にも塩分濃度が0.9%含まれています。
塩分は血液量の増加に関わっており、塩分をとりすぎると、体は塩分濃度を保つのに血液中に水分を多く取り込み、これにより血液量が増加し、血圧が上昇します。
逆に、塩分が不足するとどうなるのでしょうか?
血液循環が悪くなり、頻脈、低血圧、頭痛、倦怠感や疲労感、さらに消化液の減少がひきおこされ筋力が低下し筋肉痛が起こりやすくなります。
また、急激に減少することで、ミネラル不足になり筋肉の痙攣、昏睡状態に至ることもあるのです。
さらに塩分を制限すると水分量の増加により心臓への負担を少なくすることにつながります。
では、人間が美味しいと思う塩加減は何%なのでしょうか?
人間の血液の塩分濃度は0.9%ですが、肉や魚のソテー、焼き物や炒め物などはそれよりも若干高めの塩分濃度1%が美味しいと感じる目安だそうです。
私たち人間も動物であり、微生物と同じく塩に左右されるのだとつくづく感じますね。程よい塩梅を意識して、これからも塩とお付き合いしていきましょう。
この記事を書いた人
山田 雅恵(やまだ まさえ)
旅する発酵料理家・ファッションデザイナー
旅と発酵の世界をこよなく愛し、発酵の醸し出す世界を広めるために日本各地、海外にて発酵を求め活動している。
文化女子大学家政学部服装学科卒業後、エスモードパリ本校にて学ぶ。ニースのコンクールにてクリエーション賞受賞。パリコレなどのフィッターを経験。帰国後にインディーズブランド立ち上げ、セレクトショップ、大手アパレルブランド数社のデザイナー、京都にて京友禅の着物作りを経て、デザイン企画会社を仲間と起業。
ファッションデザイナーでありながら、天然酵母のパンの発酵と自然の世界に魅せられ、発酵の世界へ。日本の麹の天才調味料、醤(ひしお)仕込み、活用の仕方を広げるべく、日本全国、フランスでも仕込み会を開催。衣食住・心を、発酵を通して、世の中良くしたいという思いで、神奈川県の鶴巻温泉をベースにして、日本全国で活動中。
未来の子供を食で学ぶキッズサイエンス、子供のものづくりの能力を引き出すアートクラスも各地で開催。古民家再生プロジェクトにも関わる。
2018年度より【お裁縫くらす】を日本各地で開催。お裁縫がある暮らしを提案すべく、使える日常雑貨などを作り、自分で愛着のものを作り身につけることを伝えることを使命として、活動中です。
「旅する発酵倶楽部」:https://yamadamasae.com/
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