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私たちの身近にある麹菌のことどこまで知っていますか?
いかに健康でいるか、免疫力を高めるか、ということに関心が高まり日本の発酵の力が世界からも注目され始めてきています。
昔から日本の暮らしに根付いてきた日本の菌といえば古来からある麹菌です。
東南アジアには麹菌と似たような菌がありますが、強い毒性を持っています。それに対して麹菌は昔から人間の為に選び抜かれた家畜化された菌であり、人間に害がない菌と言われています。
麹菌は日本の国菌とも言われ、日本食の味を決めると言われる調味料、酒などを作り出す重要な菌となります。
麹菌なくしては日本の伝統的な味は再現できないという、そんな国菌なのです。
蒸した米に米の花を咲かせる、その様子を表現したものが国字(和製漢字)糀です。 日本人にとって米が特別な存在であったことを感じさせてくれます。
まず麹という字ですが、これは中国伝来の漢字です。
中国では麦で麹を作ることが多いので麦偏の字となりましたが、日本では蒸した米で作ることが多いので日本人は米偏に花をつけた糀という漢字を作りました。
蒸した米に麹菌が付くとその胞子のために米に花が咲いたようになりますので、絶妙な文字を昔の人は考え出したのです。
日本を代表とする伝統的嗜好品である清酒、醤油、味噌、焼酎、みりん、漬物、甘酒、米酢などはこの麹が原料となって醸されています。
つまり日本には昔から麹があったからこそ、今日の日本の食文化が特徴あるものとして育ってきたのです。
麹はそれ単体で食べたりすることはあまりしません。ある食材と混ぜて発酵させることで美味しい発酵食品ができる手助けをします。
そんな麹の役割(働き)とは何でしょう?
それは麹菌が穀物の上で繁殖する時に生産する酵素の役割そのものになります。
酵素とは極めて不思議なもので、命はもたないのに物を分解したり合成したりする物質です。
タンパク質でできていてそのタンパク質が不思議な化学変化を行います。
まず酵素とは動物、植物、微生物などあらゆる生命体を持つ生き物の生体内でつくられる物質でタンパク質からできています。
よく酵素と酵母を混同してしまう人がいますが、酵素は生命を持たない高分子の無生物で、酵母はアルコール発酵などを行う生物です。
酵素を難しく考える必要は全くありません。つながりを切るハサミのような物と考えてもらうとわかりやすいですね。また、手を繋いでくれる仲立ちをする物質なのです。
タンパク質が麹の酵素に分解され、生成されたアミノ酸は旨味のみならず酵母や乳酸菌の作用を受けて独特の調味料の香気をつける役割もあります。
中でも着色に強く関与する五炭糖は麹の酵素によって分解されるときに生じるもので、醤油や味噌の着色の前駆体も麹が引き出す役割を持っています。
このように人は麹菌に酵素を作らせそれを利用して作られた<麹>によって様々な醸造や発酵食品を作ってきたのです。
このような超能力を持っている麹を作る麹菌とは一体どのような生き物なのでしょうか。
麹菌は通称カビまたは糸状菌と呼ばれる微生物の仲間の一つです。麹菌はカビの中でも<善玉カビ>と言われ人間の為に良い活動をしてくれる菌となります。
麹菌は生活史を通じて菌体内で様々な生化学反応をし、私たちに素晴らしい恵みをたくさん供給してくれています。
この麹菌が生きていくのに必要なのは水、温度(35度)、酸素、栄養素、PH(弱酸性)です。麹菌は人間と同じようなものを同じ条件を保って生息増殖できるのです。
麹菌は日本の風土に沿った湿度温度があり生息しているので空気中に浮遊していたり、稲のわらにも付着しています。
煮た米や蒸した米に漂着すると、その胞子を出芽させて菌糸を作りさらに多くの胞子を着生させながらどんどん増殖していきます。
歴史上麹の登場や応用に関わる最も特筆すべきことは、平安時代末期の12世紀にすでに種麹が発明されていたことです。
麹作りに必要不可欠な種麹は、 米麹をできるだけ純粋に製造し2ー3日麹室で育て、米粒に大量の胞子が着床したものをふるいにかけます。
米粒と麹の胞子をわけ、大量の胞子を乾燥して保存する方法が考え出されました。
このような微生物の種(スターター)だけを専門に製造販売する商いは世界中どこを見ても日本の種麹屋だけで、これはすごいことであり誇るべきことです。
文章で説明すると簡単な作業のように感じられますが、実はとても難しい作業なのです。
種麹をいかに上手に作るかで麹の品質が大きく左右され、製品である発酵食品に影響を及ぼします。
なのでかなり神経を使って厳重に育ててあげなければならないのです。
つまり、種麹が空気中に生息している糸状菌や野生酵母に汚染されていれば、それで作った麹も汚染されています。そんな麹を加えて発酵させる発酵食品まで汚すことになってしまいます。
このような汚染された種麹を販売したメーカーはこれまで培ってきた信用、伝統をも失うことになり、まさに命取りになりかねない状態に陥ってしまいます 。
従って種麹製造はいかに純粋に麹菌の胞子を大量に得るかにかかっているのです。
そう考えると微生物学の知識や基礎があまり確立されてなかった時代に種麹製造は並々ならぬ苦労があったのだと予想されます。
これがまた日本人のすごいところで、驚くべきことに、この難問を木灰を使用するということで解決してきたのです。
この木灰の持つ効能は種麹だけではなく、私たちの生活において肥料や傷口に塗る薬などの様々な形で利用されています。本当に昔の人の知恵はすごいものだと改めて考えさせられますね。
現在日本独自の麹の歴史文化を支えるメーカーは約10社と大変貴重な存在となっています。種麹屋さんには日本の食文化を今後も支えていただき、是非とも頑張っていただきたいですね。
種麹を使えば、麹作りは自分の体温で保温して作れるのをご存知ですか?
35度くらい保温をして2泊3日をするということが麹作りには難しいことですが、35度くらいあれば麹菌は増殖するのです。
そこで人間の体温は36度くらいということで、人間自体が発熱体ということを考えたら抱いて作れば麹作りは簡単にできるのです。
蒸した米に麹菌をつけて紙製の米袋に入れて腹巻きのように体に密着して巻けば、だいたい35度の温度が保たれます。2泊3日の短い妊婦のような感じになりますが、ずっと温かい感じの天然湯たんぽならぬ、麹たんぽのように温かさが持続します。
ずっと緩い感じの温度が麹から発熱されるのですが、抱き始めて12時間ぐらいすると、麹のいい香りが立ち上ってきます。
麹菌がむらなく蒸した米全体に菌糸が広がるように、6時間に一度は袋の中で混ぜるのを繰り返していくと、だんだん米が白っぽい色に変化してきて塊ができるようになります。
大体丸2日半過ぎた頃に、味見をしてみて栗のような甘さがあれば麹が完成します。
甘酒などにその抱き麹を使って作り、甘くなれば麹作り成功です。
簡単にできる抱き麹つくりで、さらに日本の菌<麹菌>を身近に肌で温もりを感じてみませんか?やさしい気持ちになるので、これはぜひとも男性の方にもチャレンジしてもらいたいです。
自分の体温で発酵させて出来上がった抱き麹で、甘酒、お味噌、塩麹などつくればさらに免疫力がUPするのは間違いないですね!
日本人であることを誇りに、日本にしかない麹菌をつかった発酵食が後世まで受け継がれることを願います。
この記事を書いた人
山田 雅恵(やまだ まさえ)
旅する発酵料理家・ファッションデザイナー
旅と発酵の世界をこよなく愛し、発酵の醸し出す世界を広めるために日本各地、海外にて発酵を求め活動している。
文化女子大学家政学部服装学科卒業後、エスモードパリ本校にて学ぶ。ニースのコンクールにてクリエーション賞受賞。パリコレなどのフィッターを経験。帰国後にインディーズブランド立ち上げ、セレクトショップ、大手アパレルブランド数社のデザイナー、京都にて京友禅の着物作りを経て、デザイン企画会社を仲間と起業。
ファッションデザイナーでありながら、天然酵母のパンの発酵と自然の世界に魅せられ、発酵の世界へ。日本の麹の天才調味料、醤(ひしお)仕込み、活用の仕方を広げるべく、日本全国、フランスでも仕込み会を開催。衣食住・心を、発酵を通して、世の中良くしたいという思いで、神奈川県の鶴巻温泉をベースにして、日本全国で活動中。
未来の子供を食で学ぶキッズサイエンス、子供のものづくりの能力を引き出すアートクラスも各地で開催。古民家再生プロジェクトにも関わる。
2018年度より【お裁縫くらす】を日本各地で開催。お裁縫がある暮らしを提案すべく、使える日常雑貨などを作り、自分で愛着のものを作り身につけることを伝えることを使命として、活動中です。
「旅する発酵倶楽部」:https://yamadamasae.com/
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