森林の中では様々な身体活動を楽しむことができます。
今回は、健康づくりにおける身体活動基準という側面から森林浴を見て行きましょう。
健康とは何かをまず紹介します。
そして、現在の知見を踏まえた健康づくりの取り組みの中で、森林浴などの活動はどのような位置付けになっているのかを確認していきましょう。
また、メッツという言葉が出てきます。
エネルギー消費量を考えるときに有効な用語です。併せて説明します。
健康とは何か
世界保健機関(WHO)憲章では、その前文の中で「健康」について、次のように定義しています。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)
この訳でわかりにくいのは、「社会的にもすべてが満たされた状態にあること」という部分だと思います。
どういうことなのかについては、諸説あります。
わたし自身は、「家族や友人、仕事の同僚などの人たちとの健全な信頼関係を持ち、何らかの形で社会に貢献していること」という説明がしっくりときています。
健康づくりにおける身体活動の意義
厚生労働省は、健康づくり活動として2013(平成25)年度から「健康日本21(第2次)」に取り組んでいます。
睡眠や食事などといった様々な活動について、健康づくりの面から一定の基準を示しているものです。
その中で、運動と生活活動の双方を示す身体活動(注参照)について、以下の二つの理由から「健康づくりのための身体活動基準2013」が示されています。
① 日常の身体活動量を増やすことで生活習慣病の発症及び加齢に伴う生活機能低下(ロコモティブシンドローム及び認知症等)をきたすリスクを下げることができる
② 運動習慣を持つことで、これらの疾病等に対する予防効果をさらに高めることが期待できる。
注:身体活動とは、安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する全ての動作を指す
個人の健康づくりのための身体活動
基準基準には、日常生活で体を動かす量の考え方である「身体活動量の基準」とスポーツや体力づくり運動で体を動かす量の考え方である「運動量の基準」があります。
身体活動量の基準<18〜64歳の身体活動(生活活動・運動)の基準>強度が3メッツ以上の身体活動を 23メッツ・時/週 行う。具体的には、歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分行う。
運動量の基準 <18〜64歳の運動の基準>強度が 3メッツ以上の運動を 4メッツ・時/週行う。具体的には、息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う。
「メッツ(MET: metabolic equivalent)」というのは、運動による代謝(カロリー消費)の度合いを表す値です。
安静時の身体活動の強度を1メッツとして、さまざまな運動時にその何倍のカロリーを消費しているかを示すものです。
「メッツ・時」とは、メッツに運動時間(hr)を乗じたものです。
運動量(メッツ×運動を行った時間)は、エクササイズ(記号はEx)で表します。
これらを用いるとエネルギー消費量が簡単に求められます。
1エクササイズに相当するエネルギー消費量(キロカロリー)は、エクササイズ×体重(キログラム)で求められます。
例えば、体重が60kgの方が3メッツの運動を1時間行った場合のエネルギー消費量は180kcalとなります。
計算式:3メッツ×1時間×60kg=180kcal
森林の中での主な活動の強度
身体活動ごとにどのくらいの強度(メッツ)なのかも示されています。
森林浴は、2.8メッツの「ゆっくりした歩行(平地、遅い=53m/分)」に該当すると推測できます。
他に森林の中での活動に関係するものとしては、ハイキング(6.5メッツ)、山を登る(0〜4.1kgの荷物を持って)(6.5メッツ)、ウォーキング(4.3メッツ)、ヨガ(2.5メッツ)、ストレッチ(2.3メッツ)などとなっています。
身体活動量という面では、森林浴だけでは不足
普通歩行は3メッツです。
それに比べ、森林浴はゆっくりとした歩行となるので、強度としては少し足りないことになります。
もちろん森林浴には、ストレスの解消他様々な効果があります。
他の強度のある活動と組み合わせることにより、健康づくりにも寄与できることになります。
(参考1)3メッツ以上の身体活動(歩行又はそれと同等以上の動き)」の例
・普通歩行(3.0メッツ) ・犬の散歩をする(3.0メッツ) ・そうじをする(3.3メッツ) ・自転車に乗る(3.5〜6.8メッツ) ・速歩きをする(4.3〜5.0 メッツ) ・こどもと活発に遊ぶ(5.8 メッツ) ・農作業をする(7.8 メッツ) ・階段を速く上る(8.8 メッツ)(参考2)3メッツ以上の運動(息が弾み汗をかく程度の運動)」の例・自体重を使った軽い筋力トレーニング(3.5 メッツ) ・ゴルフ(3.5〜4.3 メッツ) ・ラジオ体操第一(4.0 メッツ)・卓球(4.0 メッツ) ・野球(5.0 メッツ) ・ゆっくりとした平泳ぎ(5.3 メッツ) ・バドミントン(5.5 メッツ) ・バーベルやマシーンを使った強い筋力トレーニング(6.0 メッツ) ・ゆっくりとしたジョギング(6.0 メッツ)・サッカー、スキー、スケート(7.0 メッツ)
この記事を書いた人
高田裕司(たかだゆうじ)
中小企業診断士、森林セラピスト、キャリアコンサルタント、森林インストラクター
親子、小学生から高齢者までの様々な方のご案内を担当。NEALインストラクターでもある。
植物の生態やネイチャーゲームを取り入れた臨機応変な対応には定評があります。
経営コンサルタントとして、農業者支援を数多く実施。50坪ほどの家庭菜園での野菜づくりとランニングが趣味。