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秋の香り草枕 ~フジバカマでリラックス~

秋の香り草枕 ~フジバカマでリラックス~

秋の七種(ななくさ)を数えてみる

“平成最後の夏”もいよいよ終わり…猛暑でカラッカラに立ち枯れてしまった原っぱの様子に、この夏の厳しさをしみじみと思います。
とはいえ、入道雲が白く覆っていた空もいつの間にか青い部分が増して、風が、湿度が、日の出・日の入が、次の季節へと変化を告げているようです。
ところで日本の秋の植物というと、「秋の七種」が有名でしょうか。
『万葉集』巻八で山上憶良(やまのうえ の おくら)が詠んだふたつの歌が、その起源とされています。

「秋の野に咲きたる花をおよび折り かき数ふれば七種(ななくさ)の花萩(はぎ)の花 尾花(おばな) 葛(くず)花 瞿麦(なでしこ)の花  姫部志(おみなえし) また藤袴(ふじばかま) 朝貌(あさがお)の花」このなかで尾花は「ススキ(薄)」、朝貌は「キキョウ(桔梗)」を表すともいわれていて、あまりはっきりしていないようです。

「春の七草」のように食べて身体を調整するというよりは、秋の野原に広がる草木のなかから好きなものを数えると七種類あった、ということなのではないかと思います。
私の身近ではこのところ、犬や猫のしっぽみたいなエノコログサや、背の高くなったヨモギ、ハギなどの草木が勢いを感じるようになりました。皆さんのエリアではいかがでしょうか。
山上憶良にならって、ご自分のお庭や散歩道で“私の七種”を探すのも楽しそうですね。


フジバカマは平安女性のアロマ入浴剤 

さて今回のコラムでは、秋の七種の中から「フジバカマ(藤袴)」を採り上げてみたいと思います。
藤色をした筒状の花弁を袴に見立てたことが名の由来ですが、古名では「アララギ(蘭)」と呼ばれていました。
〈香りが良い草〉そのものを指す『蘭』の他に、香水蘭、香草(かおりぐさ)、夢花(ゆめばな)といった別名も見えます。
じつに美しい呼び名のしらべです。

フジバカマは秋という季節だけでなく、人の心にロマンティックを運んできたハーブなのだなと感じます。

原産地は中国(奈良時代頃の唐)とされています。
秋の七種でも唯一、渡来した種といわれていて、『万葉集』でも先述の一首でしか詠まれていないことから、同じ科属で日本野生原種の「ヒヨドリバナ」を含めた総称との説があります。
近年では、「フジバカマEupatorium japonicum Thunb.」が交雑した「サワフジバカマ Eupatorium × arakianum」が園芸種のフジバカマとして流通しているケースが多く、自生のフジバカマはほとんど分布が見られないようです。「サワフジバカマ」は茎の色に赤みを帯びており、密集した頭花も赤紫色が濃く、葉の切れ込みは深く3裂して細かく揃った鋸歯があるのが特徴です。一方、「フジバカマ」は茎がおもに緑色で、頭花はまばらで白っぽく、葉の鋸歯の形は不ぞろいで、「サワフジバカマ」と比べて大型になるようです。

茎葉は生のままでは香りませんが、乾燥させると桜餅のような香りを発します。
そこで古来、公家などの高貴な女性たちは、フジバカマを浸した「蘭湯」で沐浴して髪を漉いた(すいた)といいます。
このフジバカマを愛するのは人間だけではなくて、チョウの仲間の「アサギマダラ」がこの花の蜜を求めて渡り飛来してきます。
その光景は、どうか時間が止まってほしいと、息を止めて見入ってしまうようなものです。
現在フジバカマの野生種は、環境省レッドリストで準絶滅危惧種(NT)に指定されていて、アサギマダラも同様に希少になっているそう。
この先もずっと、この風土に生きるすべてが互いに喜びを分かち合えるよう、心から願っています。



アララギの香りでリラックス。フジバカマのアイピロー

秋の七種はもともと鑑賞がメインとはいえ、見ているだけではややもったいない気もします。
そこで今回はその中から、よく香る“アララギ(蘭)”こと、フジバカマを用いた〈リラックス・アイピロー〉を手づくりしました。
使い方は温めたり、冷やしたり、また常温もOK。
いったん作れば香りが薄まるまで繰り返し使えて、おうちで手軽に楽しめるのもいいところです。


※イメージ写真のドライハーブはクロモジです。

【基本の材料】
■ドライ和ハーブ(フジバカマ なければクロモジ、ハッカなど) 5g
■天然塩 50g
■小豆 50g
■外袋(綿・絹などお好きな布) 仕上がりサイズ(約)/W180×H100(mm)
■内袋(柔らかいチュールなど) 仕上がりサイズ(約)/W170×H90(mm)
■縫い針、糸、ハサミなど裁縫道具

*今回使用したフジバカマは、「和ハーブ デイドリーム(熊本県菊池市)」の畑で栽培・収穫後にドライ加工された素材です。
この秋も、敷地内で元気に育っているフジバカマを収穫予定だそうです。
また「熊本和ハーブの会(同)」ではフィールドワークや料理教室など、暮らしに活かす和ハーブ・ワークショップを通年行っています。

お問合せ先:熊本和ハーブの会(代表/和ハーブデイドリーム 住田さん)https://www.facebook.com/wahabudaydream/

【作り方】
1. 材料の重量をそれぞれ測る。ドライ和ハーブは好きなものをミックスしてもOK。

2. フジバカマの葉を細かく砕きながら、天然塩と混ぜ合わせる。


3. 内袋を作る。詰め口の一方だけを残し、糸を二本どりして周囲を縫う(やや細かめの波縫いがおすすめ)。

4. 3の袋に2と小豆を一緒に詰めて、口を縫い閉じる。

5. 外袋を3と同じ要領で縫い、最後に4を詰めてできあがり。


【楽しみ方】
●眼精疲労を感じるとき…袋ごと電子レンジで適温に温めてから(※やけどにご注意ください)、目元、おでこと髪の生え際、頭頂部、肩などに草枕を乗せます。
小豆の保温効果で温かさも持続。
そのまま10~15分ほど休憩すると視界がクリアになって、目元のトーンも明るくなります。
アイピローを外したら、目の周りのツボを軽くプッシュするのもおすすめです。

●なんとなく熱っぽい時や、運動後のほてりに…冷蔵庫で袋ごと2~3時間冷やしたものを、首の脇や後ろ、ひたいなどに当ててみてください。清涼感ある香りと共に、塩が体熱を吸収してスーッとクールダウンしていきます。

●常温のままの使用ももちろんOKです。感触はほんのり冷ややか。フジバカマの優雅な香りが心地よく漂います。

ポイントは、アイピローを乗せたときに香りを楽しみつつ、ゆっくりと深い呼吸を繰り返すことです。副交感神経が徐々に優位になってリラックスに導かれます。
長い秋の夜には好きな音楽を聴いて、読みたかった本に向かい、自分の内側と話し合ってみるのもよさそうですね。そのあとは“フジバカマの草枕”のほどよい重みと、桜のはちみつ漬けのような濃厚な香りで、とろりと夢の世界へ旅してしまいましょう!

2019年10月追記:

読者の方より、当ページに掲載しておりましたフジバカマと思われる画像について、「サワフジバカマ」ではないかとのお問い合わせをいただきました。確認の上、削除させていただきましたことを報告させていただきます。なお、こちらのサイトでは「フジバカマ」の画像と詳しい説明がご紹介されております。ご指摘ありがとうございました。

http://park15.wakwak.com/~ooyabuen/fjbkm.html




この記事を書いた人

平川 美鶴  (Mitsuru Hirakawa)

和ハーブライフスタイリスト 
植物民俗文化研究/(一社)和ハーブ協会 副理事長

8月2日“ハーブの日”生まれ。「和ハーブ」と日本人の関わりを、歴史・文学・薬効・自然風土・産業などから調査研究。講師業、商品企画開発、実践ワークショップを通じ、自然の恵みと共にあった先人の尊い知恵を生かし、未来へどう届けるかを考えるメッセンジャー。共著『あなたの日本がもっと素敵になる 8つの和ハーブ物語 ~忘れられた日本の宝物~』(産学社)、『和ハーブ にほんのたからもの』(コスモの本)
一般社団法人 和ハーブ協会(Japan Herb Federation) http://wa-herb.com

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