森林は人間の身体に対し、様々な効果を与えています。
それは森林内の多面的な要素に起因するものです。
要素の一つとして植物体から発せられるフィトンチッドというものがあります。
この物質は、夏に一番量が多くなります。
今回は、そのフィトンチッドに焦点を絞り、ご紹介します。
そもそもフィトンチッドってどういう意味?
フィトンチッドという言葉はロシアの研修者であるB.Pトーキン博士によって1930年ごろに作られたロシア語の造語です。
フィトンは「植物」を意味するギリシャ語、チッドは「他の生物を殺す」を意味するラテン語に由来しています。
実験により、植物体から発せられる揮発性物質によって原生動物や細菌類が死滅することを発見し、そのような物質をフィトンチッドと名付けました。
フィトンチッドにはどのような役割があるのでしょうか?
植物がフィトンチッドを放出するのは、植物の自衛手段と考えられています。
植物は動くことができないので、自分にとって害のあるものがそばにきても逃げることはできません。
その代わりにこのような物質を発して自衛しているのです。
現在ではフィトンチッドの意味する範囲は拡大しており、揮発性物質に限定しているわけではありません。
また、植物を「殺す」ものに限定しているものでもなくなりました。
「植物が作る生物活性物質」と同じ意味と言われています。
フィトンチッドは何から発せられるのか?
フィトンチッドは木の葉、幹、樹皮から発せられます。
そしてそれだけではなく、落葉、下草、きのこ、コケ類などからも発せられています。
フィトンチッドは様々な食品に関係しています
フィトンチッドには抗菌作用を持つものもあります。
それを生かした例としては、まずワサビがあります。
お刺身と一緒に食べるのは当たり前のことですが、味の良さだけではなく、抗菌作用があることからもそうされているのです。
そして、桜もちやかしわもちは、それぞれサクラの葉やカシワの葉で包まれている和菓子です。
柿の葉寿司というものもあります。これらの葉にも抗菌作用があり、だからこそ使われているのです。
人間にとってどんな良さがあるのか
これまで、フィトンチッドは、植物が自衛のため発している物質という説明を続けてきました。
そうすると人間も害あるものと認識され、それを取り除くような成分、つまり人間にとって好ましくない物質なのではないかと想像できます。
しかし、人間にとっては、とてもいい効果があることがわかっています。
リラックス効果そしてリフレッシュ効果が主なものです。
フィトンチッドを多く享受するにはどうすれば良いのでしょうか
スギ・ヒノキなどの針葉樹とクヌギ・コナラなどの広葉樹では発する物質が異なります。
ですので、針葉樹と広葉樹が共存しているいわゆる混交林では多種多様なフィトンチッドが流れています。
また、矢田貝光克 先生(東京大学名誉教授)による森林のフィトンチッド濃度の研究を見ると、フィトンチッド濃度は季節として6月から8月、時間帯では1日の中で正午前後がピークに達し、この環境下で森林浴を行うことを推奨しています。
また、フィトンチッドは高さ40センチのところが一番濃度が高いという実験結果もあり、森の中で寝転んだり、座ったりすることは、多くの量を浴びることにもなります。
森林浴の様々な効果は総合的なもの
森林浴の効果は、森林の多面的な要素によるものと考えられています。
フィトンチッドだけではなく、森林内の温度、湿度、木々の間からの木洩れ陽、鳥のさえずりや葉が擦れ合う音、せせらぎ、滝の音、新緑や紅葉、そして花や果実などの景色、そして森林内の様々な匂いなど。
つまり、人間の五感を通して感じることができる多くの要素の複合的な効果であるということです。
夏は暑いので、外に出るよりもクーラーの効いた涼しい部屋の中にいたいと思う人が多いと思います。
でもフィトンチッドの量は気温の高い夏が一番多いのです。
夏こそ「森に何かをされに行く」チャンスです。
夏の森に行くときは、長袖・長ズボンがおすすめです。
また、蚊の対策も大事です。
そして熱中症に注意しましよう。
水分補給と塩分を忘れずに。
参考図書
「森林セラピーとフィトンチッド」大平辰朗
→「森林医学II」大井 玄 ,宮崎良文、平野秀樹編著 朝倉書店 に所蔵
「フィトンチッド-その実態と健康に効果的な作用とは-」矢田貝光克
→「aromatopia 」75号 特集 癒しと健康をもたらす森林の力 フレグレンスジャーナル社 に所蔵
この記事を書いた人
高田裕司(たかだゆうじ)
中小企業診断士、森林セラピスト、キャリアコンサルタント、森林インストラクター
親子、小学生から高齢者までの様々な方のご案内を担当。NEALインストラクターでもある。
植物の生態やネイチャーゲームを取り入れた臨機応変な対応には定評があります。
経営コンサルタントとして、農業者支援を数多く実施。50坪ほどの家庭菜園での野菜づくりとランニングが趣味。