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逆開発と、日本初のダム撤去工事完了と 〜自然を元に戻そうとする人たち〜

逆開発と、日本初のダム撤去工事完了と 〜自然を元に戻そうとする人たち〜
筆者は大学を卒業するとき、「高度経済成長の光と影」をテーマとした論文をまとめました。1990年代の前半の頃です。高度経済成長で経済的には豊かにはなったけれど、その一方で様々な問題も起きていることを取り上げました。環境問題という言葉が出はじめた頃です。その後、1997年には京都議定書により、フロンガスなど温室効果ガスの総排出量を削減することが取り決められました。
また、大学生当時ダム好きな友人がおり、彼らは自分たちのことをダムラーと呼んでいました。自然の中に突如として現れたかのような巨大建造物をみると興奮が冷めやらぬようでした。

その頃より、約20年の歳月を経た今、逆開発と名付けた先進事例が出てきています。また九州のとあるダムでは、今年(2018年)3月、国内では初となるダムの撤去工事が完了しました。

医学の父として知られる古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、『人は自然から遠ざかるほど病気に近づく』という名言を残しています。
まだごくわずかな動きに過ぎませんが、このヒポクラテスの言葉に気づいたかのように動き始めている人々が日本にも出てきています。(もちろん森林セラピーもそのひとつです。)

逆開発とダム撤去工事の先進事例を簡単にご紹介します。


逆開発

千葉県にある小湊鐵道(こみなとてつどう)が「逆開発」と名付けた事例をご紹介します。
小湊鐵道は千葉県の房総半島を走る全長約39キロのローカル鉄道です。東京湾沿いにある市原市の五井駅から、房総半島の中ほどにある夷隅郡大多喜町の上総中野駅までを結んでいます。「里山トロッコ列車」が人気を博しています。

小湊鐵道社長の石川晋平さんは、自然豊かな山間部にあり、温泉や渓谷を楽しめる観光の玄関口として栄えていた養老渓谷駅をみて、ふと気づいたそうです。
駅から5分のすぐそこにある豊かな自然が、駅前のロータリーで遮断されているかのようになっていることに。
そしてこう思いました、「都市生活の息抜きに来た観光客が最初に見る景色がアスファルトのロータリーではがっかりする」と。

その後、駅前のアスファルトをはがすことを決断し、2017年3月には撤去工事を行い、代わりに在来種の樹々を植えたり、ベンチを使い古しの鉄道の枕木で作ったりしました。
このようにして駅前は、まるで渓谷の森が駅まで進出しているかのような魅力的な空間に生まれ変わったそうです。

「逆開発」の経済効果は大きく、養老渓谷駅の乗降客数は2倍近くにまで増加したそうです。


日本初のダム撤去工事

2018年3月、日本初の本格的なダム撤去工事が完了しました。熊本県の球磨川(くまがわ)にある荒瀬ダムです。長さ115kmの球磨川は八代海(不知火海)に注ぎ込む一級河川であり、県内最大の川。また日本三大急流の一つでもあります。

この荒瀬ダムの撤去運動の中心的役割を担ってきたのが、薬剤師のつる詳子(しょうこ)さんです。さまざまな調査もしつつ撤去運動をしてきた、つるさんの言葉には真理といってもいいくらいの説得力があります。
「川の流れも、人間の血管と同じ。自然に流れる川をさえぎるように横断構造物を作るのは、私たちの血管を切ってしまうのと同じことなんですよね」と話しています。


楽しい大水

球磨川流域では、ダム建設前も年に1度は洪水が発生していたそうですが、地元の方たちはそれを「楽しい大水」と呼んでいたそうです。
「洪水といってもきれいな砂ときれいな水が流れてくるだけなので、1年に1度の大掃除という感覚だった」と言います。
普段から大事なものは2階に置き、今日は水が来ると思ったら1階の畳を上げたそうです。
楽しい洪水と言われたのは、そのとき「アユがたくさん捕れるし、きれいな砂はコンクリートに使える」などと、大水とつき合う知恵や工夫があったからこそでもあります。
それがダム完成後、ダム放流時には大量の泥が押し寄せてくるようになり、「水害」へと変わっていってしまったそうです。


日本では唯一だが、海外では

日本では、この荒瀬ダムが撤去の唯一の事例であり、これに続いて撤去が決まっているダムはまだないようです。
しかし北ヨーロッパではすでに5,000超ものダムが、また米国ではすでに1,000超の小規模ダムが撤去されているそうです。


生態系には良い変化が

2010年3月、荒瀬ダムのゲートが全開されると、その夏には汚臭の原因だったアオコも発生しなくなったそうです。
現在も、つるさんをはじめとしたさまざまな方たちが調査を続けていますが、下流域ではアオノリが例年の何倍も収穫できたり、30㎝ほどだったものが3-4mにまで伸びるようになり、味もよくなったといいます。
また消失していた藻場も再生され、魚が卵を生んだり、休みに来たりするようになり、エビ類は増え、エビを食べにウナギも現れるようになったそうです。
このように生態系には良い変化が現れてきています。


未来を夢見ていいのであれば

こうした動きは、今後も小さなうねりとして徐々に波及していくことと思われます。
未来のことはわかりませんが、もしかしたら、10年後には日本初の原発撤去工事がすでに始まっているのかもしれません。さらに10年後には、そこに豊かな森が出現していることを夢見てもいいのかもしれません。


参考文献)
・ビッグイシュー日本版347号(2018年) 『特集 ダムを撤去した人たち』
・日経ビジネスオンライン(2017年) 『逆開発〜アスファルトの駅前を森に戻す』


この記事を書いた人

新行内勝善(しんぎょううち かつよし)

心理カウンセラー、森林セラピスト、精神保健福祉士。

東京メンタルヘルス社にて、メンタルヘルス相談や、心の病からの職場復帰をサポート。
職場復帰プログラムでは森林セラピーを導入。
また、スクールソーシャルワーカーとして小中学校の子どもたちと家庭をサポート。

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