森林セラピーⓇということにおいて、避けては通れない方がいました。
今回はその方について、心よりの尊敬と愛情をもってご紹介させていただきたいと思います。
昨年2016年2月1日、その方は、まさしく天に召されて行きました、享年94歳でした。
そのとき、個人的な思いが募り、深い悲しみにくれていったのは筆者だけではなく、多くの方々が同じようなお気持ちであったことと思います。
佐藤初女さんについては、著書をはじめとして、各種メディアや映画「地球交響曲(ガイアシンフォニー)第二番」(1995年公開、龍村仁監督)など、すでに多くのところで紹介されています。
ここでは、特に森林セラピーとメンタルヘルスというところで、佐藤初女さんに学ぶところ、そして私たちの世代、さらに後世にも受け継いでいきたいところをお話ししたいと思います。
森のイスキア
(写真)森のイスキアにて、おにぎりの結び方を教えてくださっている佐藤初女さん <2012年7月 筆者撮影>
佐藤初女さんは、青森県の弘前にて「森のイスキア」を主宰されていました。
そこでは、さまざまな事情で心に重荷を背負っている方など、人生の途上で小休止したり、深くあたたかく、そしてゆったりとした時間が必要であったりする方々に、自らの心づくしの手料理をふるまい、豊かな時間と愛情を捧げてきました。
森のイスキアが、佐藤初女さんが、人々を癒してきたのは、どうしてなのでしょうか? そして今もなお多くの方々が慕って止まないのは、なぜなのでしょうか?
その要因として特に大きいと思われるものは、3つあります。
1)人の力、2)大地の力、3)食の力、です。(写真)森のイスキア内に並べてあった佐藤初女さんの著書 <2012年7月 筆者撮影>
1)人の力
人の力とは、精神科医の斎藤環氏が言うところの「人薬(ひとぐすり)」であり、佐藤初女さんがそこにいるだけで違う特別な何かです。
初女さんの近くにいるとなぜか心が休まります。何も言われていないのに、「私はこれでいいんだ」といった自己肯定感がいつのまにか芽生えてきます。
とても幸せなときです。初女さんの心根(こころね)からの優しさが伝播されてくるのでしょう、こちらの細胞のひとつひとつが喜んでいるような感じです。
一方で、一本筋が通った緊張感もありました。初女さんは教員でもあり、また信仰していたキリスト教もあり、揺るぎない道徳心をお持ちでした。
「正しいことをする」ということを何よりも大切にされていました。
また、「『面倒くさい』と言うことが嫌い」と、強い信念のように言っていました。
「面倒くさい」と口にすることなく、手間ひまをかけることを惜しまずに当たり前のこととして喜んでやる、そういったお方でした。
2)大地の力
初女さんは、自ら、森のイスキアを置く地を選びました。
森のイスキアは、津軽富士とも呼ばれ、地元の方々からは信仰対象ともなっている霊峰岩木山のふもとにあります。
そして南西には、世界自然遺産である白神山地が広がっています。
森のイスキアの周りには私たちを癒やしてやまない豊かな自然がまだまだ残っているのです。
(写真)森のイスキアにて、ごはんのよそり方を教えてくださっている佐藤初女さんと、筆者 <2012年7月>
3)食の力
食の力とは、「人の力」と「大地の力」の合わせ技です。大地の恵みを人が加工して作り出したものが「食」です。
豊かに残された自然の中で育った、今がまさに旬のそれぞれの大地の食材を、初女さんが愛情と手間ひまを惜しまず作ってくださり、それを心ごといただいていたのが、森のイスキアです。
人に癒され、大地に癒され、食に癒される。
森林セラピーで目指しているものは、まさにこういったものでありたいと思わせてくださった、佐藤初女さんと森のイスキアの活動に感謝の気持ちでいっぱいです。
(写真)ある日の森のイスキアの朝ごはん <2012年7月筆者撮影>
この記事を書いた人
新行内勝善(しんぎょううち かつよし)
心理カウンセラー、森林セラピスト、精神保健福祉士。
東京メンタルヘルス社にて、メンタルヘルス相談や、心の病からの職場復帰をサポート。
職場復帰プログラムでは森林セラピーを導入。
また、スクールソーシャルワーカーとして小中学校の子どもたちと家庭をサポート。